この宝島別冊シリーズでの本には本田宗一郎氏の本もあるそうで、俺は売り切れないうちにも手に入れるようにキャロルに懇願した。一度本を逃すとそのあとに手に入れるのは随分あとになってしまうし、日頃、暇になったとはいえ、俺もころころ趣向が変わる特性を持っている。嬉しかったのは白洲次郎氏がマージャンをしたということだ・・・。俺はこの種目で人生の吉杯を逃した。なんと、あの二十一世紀問題でパソコンの混迷が予想されるという世紀末の夜から未明・・・マージャンをしていてそれがばれたのだ。俺はそれでもこの競技を嫌いにはならなかった。確かにそれから卓につくことはメッポー減った。俺はしかしパイを怨まなかった。好きこそものの上手なれは・・・隙こそ物の上手なれで、この競技の奥深さはそれを堪能した者にしかわからない。俺はこの一件で代行支店長という奇妙な役職で最後の二年間を燃焼したが、行員生活四十年の最後のこの二年ほど、俺がこころの忍従を経験した歳月はないのだ。