アクアマリン・マン76

 

僕はいつも、昔の慣習や気概を持った人々を愛してきた。そこは皆が知るところだろう。日本の伝統と呼ばれるもの・・・しかしそれは男だけの世界ではなく女性に対してもあったのだ。男を影で支える甲斐甲斐しい姿だ。美しいその仕草を持つ女性に僕は一目置いた。そして僕と相性がいいな・・って直感したらすぐ、活動に入った。土日も結構昔のバンカーはハイキングに出かけたものだ。ゴルフはそのあと、出てきた。しかし僕は周囲の男性バンカーたちからすれば目立たない方で、いつも、油揚げをかっさられていく。女性はそういう点に於いて速い。出世株男子を見つける能力にむちゃくちゃたけていた。それを見つける為に銀行に入行したのでは?っていうくらい、職場結婚は多かった。やがて僕はどんどん年を取っていく。四十代に突入すると見合い話もあっちから断りを入れてくるようになる。カード与信と同じだ。結果通達は速かった。しかしこんな奇遇に対して、僕がめげなかったのはバンカーだったから・・っていう自覚も内では煽(おこ)っていた。誰もが僕を人間の男としていまいちだと判別して四十代が確かにあったが、裏を返せばそれは仕事だけに邁進してきたからこそ・・・自負を取り戻していたのだ。大物をゲットするのがバンカーの一生の仕事。そこで一発逆転の評価をもらえる・・・ときは金成(かねなり)。今その金言がふさわしくなった。僕はどんなときもこの言葉に反応が出来なかったバンカーだ。時間稼ぎに聞こえたからだ。しかし機は熟すということが大物が遅い。そしていずれは僕たちに容赦なく襲いかかって来るに違いない。