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 僕は親の介護で金銭をすべて懐に入れた。もちろん介護は大変だった。しかし僕は極端に言うと母は大好きで尊敬出来たが、どうしても親父が嫌でたまらず、まずなよなよした風情で、歴史や文学についてをたらたら説明するのもまどろっこしくて母はその点物解りが速かった。確かに敗戦によって男の位置付けが全部崩壊してしまったのだ。父にはどこかで以前の有終を引き継ごうとの精神が観て取れた。そこが僕の憎悪の火に油を注いでいった。父のことは最初から嫌いだったわけではない。何しろ僕が例えば初恋をして、恋愛しそうになったらなったで、相手のことを調べ始めたりと、刑事か弁護士がやるような仕草は目を引いた。僕はそういう父の様子を見て見切りをつけたと言ってもいい。父は学歴や出自に異常なほどの執着を見せて、それを家族以外の近隣にも見せていた可能性は大。なぜ、ここまで自分の人生を大物男の人生街道だ!!と父が錯覚したかは不明だ。むしろ母のように一介の女性として、人生をまっとうした姿の方が僕の心にとっては救い。人それぞれが人物を評価する時に、出身大学や経歴で決めてしまうは往々にしてあると思う。しかし父は極端だった。バンカーなら生真面目でエリートだと即座にカテゴリ化。僕は父の子供でありながらそういう性向にない自分が誇らしい。