デニム・ブルーママン17の16

 

広く浅くを親友間でも保っていくことが、自分の生きるコツのように容子は悟ったのか、過去を語らずとも、別にいいんだ・・・っていう風に心が解けてきたときでした。いつものように電信柱の影に立っていたら、その家の御用聞きの出入り口になっている勝手口から顔見知りのお手伝いさんが声を掛けて来ます。容子ちゃん、前から訊こうと思ってたんだけど、なぜ、転校したの?って。容子は回答に困っておどおどして、ちょうどバスが来たことでその場を離れますが、バスの中でもしっかり自分と対峙しながら、どう回答すればみんなが納得するのかな?って答えを探します。なかなか世間様は納得が出来ない項目になるのだろう。そうは問屋は下ろさないっていう世間様の間口に容子は挟まっていたのですが、次に会ったときには満足な回答をしないといけないな・・ってみずからに使命として位置付けていたことも事実です。不本意なことに、現実に打ちのめされた形であっても当時の状況は、人様に説明をしていくことで難儀からも足を掬われずに済むのでは?って17歳の頭で結論が出ていたのです。勉強が出来ずに、仕方なく、転校せざるをえなかったことを、いかに上手に相手に説明するか?事実は小説よりも奇怪だな・・は本心だったでしょう。世間様は見事に自分よりも上の位置にあるな・・・って容子は観念し、そこから人生を切り拓いていくしかないっていう落ち武者の視座に立っていたのです。しかし、自分のやるべきことは、勉強で誰かを見返すことではないな・・は理屈でわかっていました。そもそも見返す必要など全くなかったし意図もない。しゃかりきになって夫は容子に、落伍者から這い上がるべく、努力と精進を説いていましたが、どこかでそれを心外に思う容子がいたことを私は見ていたのです。