アクアマリン・マン61

 ようやく今夜、メルペイの延滞の4月分をコンビニで支払うことが出来る容子だ。(チャージで返すにはまず口座に金を入金しないといけない。遅くとも明日にはチャージで返せるようだ)自分はどこにお金を直しこんだか?2階の洋間のどこかに置いているのに、それが果たしてどこだったか?ようやく、その3万円が出て来た。昨夜遅くにようやく出て来た。なんと、お掃除用のビニール手袋の箱の中。手袋はまだ、60枚くらい入っているその箱の中に現金、一万円札が3枚が収まっていた。記憶障害の顕著な例かもしれず容子は慄く。そのときは、この手袋類と一緒の箱の中なら大丈夫!!って思ったのか・・・あとで、すっかりその記憶を忘れ去ってしまうことなど想定はしておらず、二日間、部屋のあちこちを探した。何もかもひっくり返して探す容子の顛末を見ながら、みんなもなぜ?を思うだろう。自分がそこに直していながら、すっかり記憶から消えてしまっている。脳味噌の中で何かが頭を擡げているのは間違いない。記憶を消すモンスターだ。それもひとつ、これまでとは全く違う忘れ方だったことで容子は怖がっている。今までは、あああ!!そうだったわ。手袋の箱の中だった・・って思い出すのに、今回は自分がそれを箱に直したときの記憶の手応えや欠片が見つからないのだ。何か得体の知れない別の恐怖もある。家族の顔がいきなり眼に浮かんだ。この人間たちを、もしも、忘れてしまったら?涙目になる…そうなれば、大変だけど、今のところは大丈夫ってそう思いたい。記憶は、日々薄れ、風化を辿るのだろう。作家と言えど生身の身体。66歳の文豪だ。これからはそんなことは起こらないと信じたい。へそくりとして隠したものの、自分の直しこんだ場所を、すっかり忘れてしまう老人の例はよくある。俺が亡くなって、一ヶ月程が経過して、押入れの中から、四万円が布団の間から出てきたあのときを思い出す。へそくりとして俺が隠していたあの4万円を、息子が見つけたときの、容子の素っ頓狂な顔。すぐに3万を息子に献上し、自分は1万だけ受け取った。キップのいい母親ぶりをアピールしたかったのだろう。いや、そうじゃない。発見者が息子だったからだ。