Ss196

 父は最後に僕を裏切った。なぜなら僕に泡を吹かせるような遺言書をしたためてこの世を去ったからだ。和田家の建物の現存を残したいという切なる気持ちなのか、僕への復讐かどっちかは解らない。しかし親として父のやった行為は結果、僕を立ち直らせる。父は土地も家屋も姉の容子にお願いするを書き遺してこの世を去って行った。僕は父の死後一年足らずでその旨を聞かされる。くやしいという思いが沸々と湧いてくるかと思いきや、逆だった。さばさばした気持ちに僕は一瞬でなった。それは不思議な動揺であり発掘だった。ひとつだけ父は活路を残していたことが嬉しかった。この遺言書は公証人が不在。それなら長男の力で突破は今後可能である・・・と。父は最後に僕に示したのだと思う。お前に退路はないんだよ?って。姉に一歩もリードが出来ないお前の人生だった・・・と。しかし本音ではどうだったんだろう?父が抱いた処のいちるの望みも手に取るように分かる。バンカーだった姉の夫なら何らかの打開策を見出して家土地を後生いい形で保存してくれるのではないか?って。その大いなる希望は幻影とはなったが、まだ完全に海の藻屑になった訳ではない。六歳も上の姉を僕は本当に尊敬していたのだろうか?その根拠もないし満たないと心のどこかで軽蔑していたのではないのか?女性という生き物を僕はまだ理解が出来てない。何の為に男に仕えているのか、その本心を拝みたい己がいる。