スノーサファイア・マンss4 タヤという女性がどういう女性で認識を一致させたがいいかは、僕も今迷っている。ただ、かき道〔どう〕では名門の家に生まれたことは事実で夫の光男が和田家の養子としての後継ぎに失敗した時には、三日三晩は何も口には入らなかったというから、それ相当の約束事があってのお嫁入りだったんだろう。なぜ、光男は養子にまでなった家を継げずに翻弄を余儀なくしたか文書では残っていない。ただ、タヤは四十歳になって無一文になったことを、子供達を生き証人にしてまで日々語っている。その慟哭は並大抵では無かったのだろう。しかし姉が50才を超えて地元の遠縁の人に聞いた段階で分かったことも多い。田舎ではこのような財産の略奪はよく起こっていたと言う話で、新しいお嫁さんが来て家の中ががらっと変わったりで、中々細部まで語るには気が引けるのか、最後まで聞き出すことは出来なかったものの、田舎の財産相続は本人がいない間にどうにでもなったというから恐ろしい。確かに光男は博多や京都や東京まで出掛けて紋や絞りの修練に明け暮れていた。元家のことに目を注ぐ時間もない。タヤの悲痛な面持ちは男の兄弟達には分かってはいた。直訴に行かない大人しいタヤではなかったからだ。濱田家は名士の家で最初に矢上では近衛兵に就いた人物がタヤの血筋だったと姉は聞いている。実際にタヤは矢上町に出来た文化伝承所まで和裁を教えに赴いたこともあるそうだ。濱田家から和田家に嫁いでからタヤの一生は変節を辿ることになる。