スノーサファイア・マンss3 和田家にこの息子が誕生した五月とその一年後、その頃の活気に満ちた和田家の様相が手に取るように分かるのはのぼりである。端午の節句の旗はそれこそ勇壮で、タヤの亡父の光男お手製ののぼりが立てられ、どういう訳か雨が降り出すたびにそれを慌てて取り入れる為表に出ていたというから、姉の記憶もさすがだ。それだけ雨に濡らしてはならないタヤの命にも匹敵の宝ものだったんだろう。和田家は男の子にたいそう拘る家系であったようで、タヤみずから自分の子供の女の子三人と男の子一人を交換しても悔いはないと、堂々発言したいたようで恐れ入る。女子の存在とはそれ程小さいものだったのか?しかし封建をぞろ引いた古式ゆかしき家なら、それも普通だったんだろう。考えられないとんでもない嫁が来たことで、タヤは黒船以上の覚醒を強いられて、その矢表に立たされる。まず孫を触ることが出来ない。今なら少しは解るが、当時そんな嫁さんは皆無だった。母親には従来から強い潔癖症のようなものが見受けられる。汚いものがダメという症候群だ。地べたに座って泥の付いた野菜を仕分けする義母の毎日は、母には嫌悪でしかなく、とうとう一度もちゃんと話をしなかった。夫の方がこれまた、どっちにも賛成するのだ。嫁にもは~い。お母さんにもは~い。しかしこれではいつか精神的破綻を生むことは誰にも明白だっただろう。しかし父親として夫は正しかったのかもしれない。幾つもの思想の中で明らかに当時、嫁が獲ったスタンスが今の世の中で採用になっておるのを目の当たりにする時、どっちにも賛成せざるをえなかった父親の苦悩も分かるのだ。