サファイア・マン《緻密な男編》〔166〕そういう暗夜行路のように追い詰められた父が娘の為を思って諭した言葉は心に響きはしていた。しかしそれに巻かれてはす巻きにされてしまうぞ?との危機感が自分を煽ったし、最近になって父の遺稿に三好達治の詩に関連した原稿が見つかってこれを来週に亘って紹介しましょう。父は測量船をよく読んでいた。それは詩集の持つ美味な部分で何回読んでも飽きない。その詩は、わが名を呼びて、という題名で私も父の原稿を最後まで読んでみます。わが名を呼びてたまはれ、この言葉が冒頭にもあって最後にも出て来る。普通の人なら何も別段思わないかもしれないけれど私はなぜ父から預かっていたのに、今までこれを読まなかったんだろう?なぜ、今出て来たの?ってまず思ったんですね。これは父が最後に書こうとしていた本の一部になっていてなぜこの三好達治の詩歌が真っ先に出て来たのかなあ?って。本来なら宗教色一本で本をしたためる手法の父が、いきなり母と子の心象に及んできていた。それは刊行されないまま終わった父の思いの断片ですが、こう記しています。日常の迷いの世界のもうひとつ前にある世界、人間の意識が働くその.....