サファイア・マン《かけがえのない男編》〔55〕母が求めていた結婚生活とは全然違う環境になったときのその素早い対応に驚かされます。キャロルは矢上が気に入り、ずっとここで生活が続行と思い込んでいたらばあの事件でしょ?二階増築した大工さんが母の手を引っ張り、和田家を出て行こうとするのを必死で止める・・・。しかし母はそういうことを何度もアタマの中で描いてコトを起こしそうになっていたからでしょう。ある日こう尋ねるのです。そんなに大きな家でなくてもいいでしょう?アパートだって耐えられるでしょ?って。どういうことを意味するのかわかっていました。母は全部を捨てたかったのです。これから身に付けるであろう生活一式のすべてを、思想を含めたすべてを撤廃したかったのです。でも・・・母には古き佳き時代の思い出がありました。良妻賢母だった母親や軍人としての務めをまっとうした父。そして気丈で俊英の兄。こころ細やかな気配りの出来る姉や妹。家庭の中に一種、幻のような憧れを抱いていた・・・というのも事実。すると封建主義、軍国主義をまだ、こころのどこかに生かしていた可能性はありますね。それをさせたのはきっと脇田大佐の影響だったのでは?そういう嬉しい予感がするのです。