サファイア・マン《面白い男編》〔49〕物語は目の前に位置していながらマスターは中々真相には触れようとはしません。自分達の物語が他者に影響を与えることを実は遠慮しているのかも?と。それは一冊の本でもあればじっくり味わうことが出来るのでしょうが、マスターは自分を正当化しない純朴な弱さをキャロルに露呈しながらも物語の重要性を自身で紐解くのです。軽妙でありながら軽くない男の見本。この種の職業の立脚を彼はまだ若いのに会得していたのです。たとえば、キャロルのあゆみという名前に関して鋭いところを突いてきます。一晩だけスナックを手伝ったときに、一体名前はなんで出てた?ってマスターは真顔で聞いてきます。それが思い出そうとしても、思い出せないと正直に吐露したら、マスターはいい名前を弐三日中にも君に付けてあげるつもりが、いつの間にか、いなくなった・・・と。そういう幽霊のような際どさが二十代冒頭にはキャロルにありました。いつの間にか、大きな勢力を付けて、新しい源氏名でブレークすることなど実は朝飯前だったのかもしれません。あゆみさんの名前は・・・と恵理が話し始めます。このあゆみさんには大きな期待が掛けられているんです。マスターは身を乗り出してきます。それがオーナーとか全然あゆみさんを特別に買ってはいないのに、一部長がこの素晴らしい名前を店の命運を掛けて付けたらしいんですよ~と。