アクアマリン・マン89

 

生前僕がもっとも好きだったのは働いている容子の姿だ。それがあって、ずっとバイトをして欲しいと内心は懇願をしていたのだが、専業主婦の気楽さを存分に味わった容子が、腰が重たくなるのは当然で、家のことをこなすことと、外に出て働くのはまったく違う緊張もあって、おいそれとは、僕は家から容子を追い立てることが出来なかった。銀行を定年して、五年はパチンコ店に勤務した僕だったが、そのあとは家にずっといた。その頃の楽しみは、やはりスーパーに行くことで、各店の同じ商品の価格を比較することが旨味があって有意義だった。少しでも安いものを買い求めて、家に帰宅したときの満足感はえもいわれぬ思い・・・主婦の毎日っていいな!!最高の仕事だな・・って僕は自分の行為におぼれていく・・・なんでこういう幸せを、容子は感じ取ってくれなかったの?一瞬にして、僕は自分の顔が鬼になっていることに青ざめる。なんでそこまで、相手を縛るの?別にいいじゃない?主婦は自分が気に入るお店で自由に探索してその時に、買おうが買うまいが、男がいちいち詮索する筋のものではない・・・って常に自分を諌めた。怖かったのもある。何か意見を言おうものなら、僕に対してすぐさま応酬くるとかそういうたぐいの怖さではないのだ。みみっちい男に見られることが嫌だっただけなのだ。今になって、思う。あのとき、あやつをそっとして無言で放置した僕の行いだ。優しくて心根がおおらかで、男らしいわ!!ってきっと容子は今、回想しているに違いない。心根とは心の値段でもある。☆ふくの湯にて☆(24327)