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 一日でも父に長生きをさせたくて日々そのことばかりを母は考えていたという。僕も同じだった。どうしても自分の手で酸素チューブを取り払ってしまう父を見かねて僕は相談する。亡くなる前夜・・・。なんであんなことを質問したか?母が看病で疲れていたことも起因したと思う。なぜ、チューブを外してしまうのか、それは本人しか解らないことかもしれない。苦しくてどうしても手がそこに行ってしまうのか?母は父のいつもとは違う素行に気が付いていた。今度の入院はこれまでとは違う、快方に向かうのは今回ばかりは絶対に無理って時折零すのよって。僕はそれでも一日でも長く生きて欲しいっていう母の希望に添えればと看護士に相談する。チューブを本人が獲れないように何か方法がありませんか?そうですね、テープで固定しても剥がしてしまうでしょう。実際はお薦めはしたくないんですが、酸素を外したくないっていう強い希望がご家族にあるのなら両手を繋いでしまうという方法はあります。繋ぐ?ええ、可哀そうでお薦めは出来ないんですが、もしも酸素を外してしまうのが絶対嫌なのなら私はそれしかないと・・・確かに母が泊まり込んで看病していたとしてもちょっとした隙はあって居眠りしてしまう。ないとは限らない。僕は決心してそれをお願いする。母も了承する。朝になって結んだ紐を解き少し話せるかも?って暫く期待しながら時間が経過した午前5時50分過ぎ、父は息を引き取る。なんて酷いことをしてしまったんだろう・・・僕の心は悔いで洪水になる。母は死に水を含ませながら謝った。お父さんごめんなさい、至らなかったあたしをどうか許して下さい。父は全く苦しまず黄泉の国へと旅立った。