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 僕はこの人物の子供に生まれて本当に幸せだったな・・・ってようやく父がみずから開襟を開いて僕に生涯預金の額を教えてくれた。なんかもう凄味が感じられて、僕が想像していたよりも遙かに多くて驚く。しかしそれは法律によって決まる分配なのであれこれ言うのはみっともない。しかしここに来るまで自分の金銭上のことを全く話さなかった親父には、人間で言うところの金銭通信簿がオール5だったこと、そこを禁じえない。何でもかんでも人のものを拝借して財を築き上げる人間の多さ・・・。裸一貫からよくぞ76歳までを堅実に歩んで来た親父が誇らしい。この金銭を僕は馬鹿なことには使えない。本当に実のあることに使いたい。予想だにしていなかったが、おこずかいとして小額だが、僕にプレゼントしてくれた。今までおむつや食糧を買い込んで来た僕の介護功労への感謝だろう。昨日、十八の通帳を任される。僕はこの通帳が実はもっとも嬉しかった。預金高は子供の十八年間のお年玉くらいだがここには県民共済の引き去りがある。孫たち全員と妻、子供の女子に親父は掛けていた。なにか起こった時に女子が困らないようにとの配慮だろう。しかし男にはない。短期間の入院でもきちんと支払うこの共済を親父は長年信用して来た。僕が絶対にこの引き去りだけは滞らせはしないよ!!って父に約束した。