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 僕は親父の病室で存外なことを発見する。看護師によって体温の計り方が異なるのだ。おでこで計る最新鋭の体温計ではない方を採っている看護師さんの場合、いつもおでこで計った方が低い。その看護師さんが両方で計って僕達に体温を伝えるので驚愕する。なぜなら腋の下よりも実は最新鋭のおでこ体温計の方が絶対に正しい!!って当初僕が思っていたからだ。しかしその看護師はベテランで、私は・・・腋の下で計る方を採ってますって。こんなことがあってもいいのだろうか。おでこと腋の下での測定差が四分以上に及ぶとき、僕は自分の概念が音を立てて崩れ去ったことを知る。僕らの常識もこうやって崩れていくのでは?との事前予感だ。親父だっておでこで天国を味わい腋の下で地獄へ落とされる。体温の高低こそは親父の死線であり生線なのだ。おでこ計測は結果も速くこれが絶対だと思った自分とは乖離した自分が今、明らかに息をしている。なぜなら彼女が二つの方法で計測し体温が違う事を目の前で証明したからだ。これまで僕はこの種の不安に駆られたことはなかった。速い方が必ず正しいって・・・。しかし彼女はベテラン看護師として最後に締め括る。他の人はどうするかはさておいて、私は腋の下で患者さんの体温を計っています。信じるに値すると僕は思う。もちろんおでこが間違いとは言ってない。おでこも正しいのだ。