Ss290

 姉は僕らの父が出版した本をマネージャーのお母上に贈ろうと考えているらしい。生涯にたった一冊だけだ。父には共著もある。長崎えほん風土記。この本も中々見つけることが出来ない品薄で、父が自分のみずからの思想、資金をすべてつぎ込んで京都の百華苑から出版した自然法爾章〔じねんほうにしょう〕確かに歳を重ねるごとに父の言わんとしたことも理解が可能になってきた。恥ずかしながら僕はずっと、しぜんほうにしょうと音読。父は九十一歳まで生きて僕ら姉弟のことを案じながら亡くなった。しかし自分のことに特化し、精を出すこと、自己責任の貫通する世界を創出した姿に僕も改めて観点を置く。自分の人生をひと様のせいにしたり丸投げで委ねなかったあの姿から学ぶ。僕も少しは成長してきたのかな?ってそこを思う。姉は今年の総括としてやはり白い巨塔の中で精彩を放った財前教授、そして仲間の医師である里見医師のことが忘れられないという。前者がなりふり構わず出世街道を驀進していくエリート渇望型なのに反して、里見医師のおおらかな人柄・・・人間性。そして本当の病状を彼でさえ、財前に言うことが出来なかったという最終的真相。医師同士でもそうなのか・・・そして灰汁の強い財前教授が最期は自分の病気と向き合って執刀を里見に任せたあの気モチ。そこに我々が置かれた真実も重なる。早期発見出来なかったとはいえ、財前も里見も優秀な医師。彼らをもっても出来なかったことを経済面で来季、挑戦していく気がい。姉を僕は遠くから観測する。この婆さんは口が上手い。嘘八百だ!!しかしその八百の中にラッキー命中がリアル含まれる。