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 自分に近い人間を演じるとき、そして自分とはうって替わる人間を演じるとき、役者はどれ位大変さの度合が変わってくるのだろう。白い巨塔を連夜観て俺はこの作品が現代の医学の実情を描くと同時に、医学者の違いが各人あることに思いを馳せる。患者の為に動く医者と、自分の為に動く医者だ。誰だって前者、里見医師のような先生に出会いたい。どの患者に訊いても答えは同じだろう。しかし俺達の内奥に密かに権威への憧れが潜んでいるのではないだろうか。お近付きになりたいといったような、底知れない憧れがある。だからこういった事件も後を絶たないのだと思う。権威に取り憑かれた者たちを、俺はあえて責めない。なぜならこれはフィクションであって、あくまでも作家の作品だからだ。しかし作家が目を付けるということにも僕は眼を凝らす。問題の提起を感じ取ったからこそ、作家はしたためることを決意し自分の中で総括も始まった。医療は金と権威に塗れているとはいっても、そうではない精神的病理学的な潔い一面もあって、全部が全部これと似たような内幕などとは、視聴者は誰も思ってはいない。しかし医師との出会いが人生には誰にもあるように、俺はその点で肝に銘じたい。幸運を祈るしかない。そして松山ケンイチの演技力の素晴らしさに絶句、ぐうの音も出なかった。もちろん岡田准一も同位だ。