イエローダイヤ・マン《標榜編》〔605〕自分の目で見て、手で触れて、感触を確かめながら買い物をするのは初のような気がする。これまでインターネットですべてを賄った。しかし新鮮な気持ちをこうした自分で赴くということで達成出来る買い物にも手ごたえがある。ぐんぐん分け入って僕はお惣菜の売り場から個々の島まで来てしまう。そこにあるすべての商品の数は一体幾つくらいあるのだろう。どれもこれも食卓に欠かせないものなのに僕はほぼ自炊をしないことで品物の使い方さえわからない。ただ、基本は頭に入っている。乾麺、乾物と称されるこれらを見ながら僕は急に思い出す。友人の家で出前一丁を作ってくれたあのときの喜びだ。インスタントラーメンでありながら、手作りの感じが強くて法外の幸せを味わった。友人は作るのに慣れていて、五分も掛からずに玉子を半熟で浮かばせ持ってきた。食べて台所に下げるよ!!って僕が持って行ったら、友人はさっさと洗って籠に伏せた。ちゃんと奇麗に使うなら作ってもいいよ!!って母親に厳しく言われていたようで感動した。僕はそんなことは一回もしていない。いつも母がドーナツやお好み焼きをその場で作ってくれた。友人の母親は働いていて家にいないことが多かった。僕は母がいないならいないで、ちゃんと何かを身に付けたその友人を瞬間認知したのだった。