サファイア・マン《かけがいのない男編》〔190〕人の心を一秒で虜にするものが芸術の本懐にはあったものの、その一秒をいかにゲットするかに、誰もが右往左往しているのは承知の上。私の心にあったアイデアは、その頃インターネット投稿はほぼない時代ですから自分の考えを発表していくのなら地道な新聞投稿しかないなっていう結論にはなっていたのです。しかし心の中には迷いもあったのです。そこだけに絞ってしまいもしも失望が襲ってきた時にいかに対処出来るか?逃げ道も当然作っておかねばならず他にも投稿出来る場所を模索しますが見つかりません。今の時代が薔薇色の時代と位置付けられるのはそこにあって、私達の時代は暗黒でした。自分の気持ちを伝えようにも媒体がないのです。毎回新聞に載るような玄人はだしの人々は別格として、私は自分の意志の伝達が出来ない環境を恨みました。しかしそういうことを言っている時間はないくらいに帝王切開の現実は差し迫って来ていたのです。宇部に着いてすぐさま訪ねた病院では次男の帝王切開の後、すでに三年九ヶ月が経過している点を挙げられて、正常分娩を奨められるのです。私はそれは死んでも嫌だったのです。それでこちらの気持ちを伝えようともう一回頑張ってお願いするのですが、帝王切開しかダメだという私の気持ちを汲み取ってはもらえないまま、病院を後にするのです。