サファイア・マン《かけがえのない男編》〔45〕和光さんはキャロルをグランドホテルに誘います。お店が終わってご一緒したのですが、そのラウンジで是非ピアノを弾いてみてくれない?って。和光さんは親友の由布子さんといつも一緒でお互い年齢が近かった。キャロルは自分の作曲した音楽を弾いて、その他にもヒット曲をアレンジして弾いてみせました。和光さんはきっと音楽の磁場を持っていたのでしょう。えもいわれぬ不思議なメロディは全部貴女の作曲?と訊いて来るのです。ええ、私は自分のオリジナルしか弾かないだめなピアニストなんです。なるほどね!と彼女が微笑します。やがて顧客がやって来ます。クリスチャンディオール製の虹色のワンピースをなびかせて、ダンスしながら、彼女は自分の世界を堪能します。そしてテーブルにキャロルを呼んで、貴女がピアノを弾くほどの才能を持ちながらホステスをやる、その辺の裏話を是非聞かせてくれない?子供さんたちの将来のため?それとも旦那はすでに紐なの?キヤロルは自分にはユメがあることを和光さんに話したかったけれど、当時はまだ、詩作三昧の日々。経済的にも明日をも知れぬ身でした。詩作や音楽で一生をエンジョイ出来れば言うことはない・・・と言おうとして迷ったのです。そういう立場を見せると思い上がっているとそう獲られかねないのでは?シグナルが点滅したのです。女性にとっての美はあくまでも甲斐甲斐しい母でなければならぬと・・・。