ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔108〕母には途中で教師は辞めてしまったものの、何か決定的な憧憬が音楽を中心としたテリトリーにあって、その音楽の芽が息吹を現してキャロルは初めて本格的に作曲したワルツを母の前で思い切って弾いてみせます。すると母は、これまで立て掛けていた楽譜をそのままにして、本当に貴女が作ったの?と訊いて来ます。それは子供を育てる母親になら誰にもありうる驚愕の瞬間でワルツにしたのも母がきっとそれを好むだろう・・・と。海をテーマにしたこの曲は、母が忘れようとしても忘れることの出来なかった脇田大佐をキャロルは奥底で描いていてさり気なくこころの中から問い掛けます、父親を封印しなければならないなど、あなたは壮絶な人生を歩んできたんですね?だから夫に素直にはなれなかったのでは?潮風の匂いが返ってきそうな引き出しの中の名も知らぬ貝殻・・・と始まるこの楽曲をは母を魅了しもっと別な観点で脇田大佐を見ることも実は可能なんですよ・・・とキャロルの意図が母に伝わったのか、えもいわれぬ表情を母は送ってきます。まず、巷に出回る楽譜よりもこころを打つ音楽が自分の家で自然に流れてくる・・・ここなんですね。ニッポンで未発表の楽曲を母に聞かせてそれを母が堪能したことにキャロルは安堵します。貴女が生んで育てた女の子がこうして生演奏していることをまず喜びましょう?と。