サファイア・マン《面白い男編》〔30〕シゲコには長期的な恋人がいたことをキャロルは後年知ります。その女性が中州に店を出すときに、一緒に物件を見に行ったというからこれはやつの告白だなあって。素晴らしい女性でした。シンプルで気配りがあって華やかさと引き換えに天使のキップを持らったような女性。本当にキャロルは知らなかったのです。その店に生まれて何ヶ月かの娘をダッコして、シゲコと一緒に飲みに行きますが、そのときに無粋なキャロルは全くふたりの関係には気がつきません。過去ですから気がついても何も言わなかった。ただそのときの彼女の接客が、あまりに素晴らしかったのでキャロルはお礼の意味を込めて真珠のネックレスを後日贈ります。これが騒動の原因でした。お高いものではありません、五千円くらいのお品でしたがシゲコに切れられたのです。当時まだ、キレるという言葉はありません。やんわりとこう揶揄されたのです。あの女性がどれだけの年収かを知っているのか?人を馬鹿にするのもいい加減にしろ?と。何がなんだかちっともわかりません。シゲコは勝手に怒っているようにしか見えなかった。一主婦だからこそ、あのネックレスを贈るのが精一杯だったのに。シゲコは、解らないのか?とまで言うからこっちもキレたんです。接客に対するこちらのお礼の気持ちだったのにそこまで問題にする事が判らないって。真珠は涙を意味するんだよ、そんなことにも配慮できないなんて・・・シゲコはあからさまに言うんですね。