サファイア・マン《かけがえのない男編》〔13〕父の家を訪ねたのは正月元旦。お布団の両足の付近までコタツを寄せ付け、弟は介護で奮闘していました。矢上神社での初詣の喧騒とは裏腹で少しショックでした。弟の優しい瞳にキャロルはこころの中で答えたのです。ふたりが歩んできた道はずっと、侮蔑や軽蔑の道だった。落ちこぼれに甘んじたからです。こころの中では自分だって、いつかはイッパシにとそう願えば願うほどに沈痛は増した。強がろうとしても現実は漬物石のように覆い被さってきた。自分はきっと特別な人間だ!?とプライドを持つことで、ここまで来たんだな・・・。彼の気持ちは透視が出来ます。もうキャロルを妬んだり不可解に思ったりはしていない、なぜなら、彼は何を隠そう介護思考だからです。いっときもじっとはしてない。その姿やスピードにキャロルは驚かされる。もしも自分が著作権を有しているのなら、このよみびとしらす・・・の著書も彼に胸を張ってすぐ見せることが出来る。でも今の状況では一生、この本についてキャロルが語ることはありません。物書きにとってのプライドです。もっともこのプライドがないのなら、ほ~ら私の本よ!ってキャロルは弟に言うでしょう。それが出来ないことがやはり文筆家なのです。弟は一緒に訪ねた次男に久しぶりだな!覚えてるかなあ?脇岬まで自転車で行って、泳いだこと?ああ、覚えてる。キャロルはあの長崎の南端まで、ふたりで行ったのか、しかもそれを聞いたのがこの元旦。なんという自転車野郎!!って二の口がしばらく出てこなかった・・・。