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 子供の頃見ていた五十代の人間達は、最高に完璧だったことを記憶する。誰一人間違ったことを言わず、僕達の知識をリードした。知らないことなどないと言わんばかりに議論し尽くして彼らはあった。しかし今の五十代はまずとんでもなく若いことを身につまされる。昔の三十代の人間達の様相といっても決して過言ではない。平均寿命は延びて、それによって、人々は六十の手習いどころか七十の弟子入りだって厭わない。人生をまだ掘り尽くしてはいないんだとばかり、新しい世界に身を置こうとする並外れた勇気と闊達な精神力に僕は打ちのめされる。あの頃は、僕達の環境自体が正しく手狭だった。インスタグラムもフェイスブックもブログもない時代。今は情報を送るのに、素人と玄人の敷居は同じでそこにまず驚かされる。素人が掘り起こすスクープもあれば、玄人が守ろうとして躍起になったトップニュースでさえ、素人に持って行かれるケースもある。みんなが同じ感性では動いてない分、組織の縛りにはない素人には格段の分〔ぶ〕がある。誰にも遠慮がないし、そこは太っ腹な環境と言わざるをえない。ひと昔前なら、社会情勢はすべて、新聞を読む人々が握っていたが、今は逆に新聞のみの情報に浸かっていたら干からびる。世界のブログ市場を駆け抜ける洗練されたセンテンスが情報の優劣を今日も競い合っている。