ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔246〕父が教え子にあたるT氏を、選挙参謀として抜擢したのはその鞭撻力の素晴らしさを見込んでのことでしたが、幾分、弁が立ち過ぎて怖い一面もあって、それは心理的に人の心を揺さぶる手法を彼が知っていたことは大きかったでしょう。どこでそれが解ったのか?というと私のことをお嬢さんとずっと呼んでいたことも関与します。こういった人を立てる人物の舌周りの絶妙さに二十代前半の私が敏感だったのも、少しだけ夜の世界を覗いていたからかもしれません。夜の世界に棲む人々こそ地位や名誉のある人に弱かった。いつかその名誉に自分もあやかれるのでは?とどこかで依存してしまう甘さも潜んでいて、父は兄弟筋に幼稚園を経営している人物がいたことや、学業成績が学生時代に秀でていたことなどで、T氏を盲信していた節はあって、私も強い余波を受けていました。この選挙は博打よりも可能性は低いなどと彼は死んでも言わず、ただただ、選挙の常道を説くのです。基本的なことは十分マスターしていて、その手の学習は惜しみなくやったのでしょう。私も父も彼の言うことに文句を付けたことなど一度もなかったのです。