サファイア・マン《かけがえのない男編》〔36〕キャロルはこのクラブに誰も知り合いはいません。正しく飛び込みでした。品がいいクラブというのが念頭にあって探し出した唯一のクラブ。当時会員制クラブというのは長崎にあったのでしょうか。銀馬車、そしてミナミ、泥棒貴族、リーベ、そういったきらびやかな社交場にキャロルは見向きもせずこの店を選んだのは上品の2文字でした。店を入ると右側にガラスカウンター、もちろんそこで顧客は酒を飲めます。キャロルはあゆみという名前がそれ程に、素晴らしい特別の源氏名だとは知るよしもありません。水害が終わったあと、一ヶ月もしない長崎市では夜の歓楽街もその話でもちきりだったし、地下に構える店は全滅だった。濡れて乾いた商品の子供服処分市があり、キャロルは入店一週間前後に浜の町アーケードを歩いています。入店日は八月二十一日。別に記録していたわけでもなく今でも覚えているのは、面接が木曜日だった、そしてその店が日曜日のみ休店日。それで、月曜日から出勤して下さいね?って言われていたからです。水商売そのものに誤解の2文字があることもすでに判っていました。従妹がさんざん軽蔑の言葉を放ったからです。伯母だってそうです。遂に身を落としたとか、あなたにはもう金輪際援助しないとか・・・。本当に悲しかったけど、コイツラ馬鹿じゃないか?って実際思うんです。マジメに頑張っている人々が夜のセカイに一杯いるに違いない!っていう鼻息はルビー色だったしそういう巷の偏見を取り払う試みもあったのです。