ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔78〕ヨッキちゃんのお父様は満蒙開拓軍記者だったのですが、終戦後は公立高校の現代史の教師をまっとうしました。ひょうひょうとして寡黙な父親でしたが、ヨッキちゃんは次男であるにもかかわらず、そうやって離れて生活したせいか、こころに不思議な閃光を放っている少年だったのです。キャロルは今、女神大橋の下を車でくぐるときに宇部時代のあの閃光を思い出します。宇部興産の煙突です。ヨッキちゃんのこころにもチカチカっと光を放つ熱いものがあって、それが少年のこころの叫びなのでは?とそう思うのです。加藤完治に憧れ、戦争の一員として出征したが、戦後は何も言わずに教育の分野で己を燃やした、そうした父の想いがいかほど、ヨッキちゃんに届いていたのか?それをキャロルは逆時価と呼称して注目しているのです。逆境にもまれることですが、この痛い環境が子供に何をもたらし、その子供の感性に一因するのか?いってみれば、寂しさがあったゆえに、キャロルに声を掛けたわけでしょう、そして欠点である鼻をいつも話題にした・・・。相手が嫌がることで、生身の人間の神経を計っていたとも言えます。なぜなら、彼の環境に両親はいません。居るのはタヤとその娘たち。そして階上に越してきた不届きな家族。忌々しいまでに自分達を無視するキャロルの母の態度ににヨッキちゃんのこころはなお、傷付いたことは想像出来ます。ヨッキちゃんはシゲコよりも二歳上なので、当時の昭和の背景を共通項として二人は持っているとも言えますね。