イエローダイヤ・マン《標榜編》〔292〕お俺は恥ずかしかった。ずっとムーランルージュのことを勘違いしていた。魅惑の唇だとそう思っていたのだ。赤い風車を意味するという。ラ・メールも愛する人からのメールだと長い間思って来た。そ、それこそ間違いで海を指していたのだ。俺の認識はこうまで瑣末でほとほと参るフランス語能力だが、どういう訳かそれをネタに出来ている点で救われる。それが恥ずかしいことだけにとどまらないネタ転換が出来ているからだろう。俺にはフランスをおフランスと称したイヤミのようにキザな部分ももちろんあって、イヤミには負けないくらいのキザ力が自分の奥底に根付いていてそれは親父の影響もあるかと思うのだ。働くことに意欲を燃やし燃焼した挙げ句、今は、きこりが産み出した炭のようにテカっている。燻ってはいないのだ。自分の信念を今でも豪語し、誰からも賞賛されないのに母にも詰め寄っている。男一匹しかも生きるベテランだ。若い者に指南を与えて欲しいし俺も親父の意見に耳を塞ぐようなことは絶対にやらない。彼らの黄金期は俺達の見える位置にあるし、これからこの国を立て直していく目安にもなる。