ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔180〕本屋の立ち読みは堂々と行なわれこの商売の陰性を知ることにもなるのですが、同時にこの頃、キャロルがしかと手に入れた金銭感覚もあるのです。それは買わないで通るという制御性です。立ち読みをしている人々はたいていうらめしそうにこっちを時々見ます。彼らのとって絶対に避けなければいけないのがレジという関。しかしそれを通らずに本を読破する彼らの商魂に学ぶべきものがあって、二十歳の頭で頭を絞っていくと見えてくるものがあって、それが立ち読み力なのです。これは後世のためになるぞ!と祈念します。なぜなら本屋がこのままを、将来姿かたちとして持っていてはならない側面だったからです。しかし別の感情も芽生えるのです。なんで?本を観ながらこっちをちらっと見るのか?という彼らのずる賢さです。張り巡らされたその神経こそが時代の波打ち際だと想定出来ました。本屋が彼らの癒しの場なのです。波はどんどん引いて行くか満ちていくかのどちらか・・・。彼らが求めていたのはその潮の満ち干きを体験し停留することだったのです。こっちを見ながら静かに本をもとの場所に納めると、とっとと帰っていく後ろ姿にキャロルは一服するのです。彼らを陣地に呼び込むことは朝飯前だな・・・という計算です。