ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔87〕三輪トラックがやってきてキャロル一家は千歳町を去りますが、こころの中で期待と不安が交錯してこれから到着する新天地では失敗すまい、と堅く誓います。確かに罪びとではありましたが、それを新天地で知っている人は居ません。父も母も公言しないし、ましてや自分もしないだろうと。しかし永遠に封印などはしないことをキャロルは決めていました。自分の経歴に傷があっても愛する人々は赦してくれた。父や母がそうであったように、キャロルも五十年くらいの年月が経過したら話す積りではいたのです。読者がいなければ話にならないし、自分の経験がもしも役に立つならその時をおいてないし、チャンスだと・・・。母は不安でたまらなかった。この同居生活にある程度の争いが含まれることに戦々恐々としていました。なぜなら母は折れるということをしない!と自分の心に決めていたのです。父は優柔不断な性格であるにもかかわらずこの両者の拮抗を治められるとそう思っていた点で甘かったのです。父はタヤに全く刃向かうことが出来ないし、そのことがわかっているのに、同居せざるをえなかった背景に実は母は人生の無情を感じていたのです。歓喜で家族の到来を待つタヤにはそこがわかりません。なぜ嫁からこうも敬遠されるのか?母はどうしてもタヤが好きになれなかったし、その生理的な悪寒はキャロルにも理解しかねる・・・・。キャロルはあの事件を契機に変わる事を余儀なくされた。そう簡単に消えることのない過去こそがキャロルの随伴者だったのです。