サファイア・マン《緻密な男編》〔23〕和裁を習いにきていたのは、彼女10代のときで、キャロルはまだ小学校一年生、弟が一歳なるかならないか・・・。みんなの前を通るときには、会釈をしていたそうで、自分はうっすらとしか覚えてはいません。一階は筒抜けにして開放していましたが、天井が低くて、和裁をするには暗く感じました。それでもタヤの和裁は人々のこころに何かを教唆したのか、その女性他数人習いにきていたし、遠縁ということもあったでしょう。タヤは女性の自立の基本が和裁であるとそう信じていました。裁縫、躾、炊事、洗濯、掃除・・・なるほど筆頭にきています。キャロルはそこで意外な言葉を耳にする。あの頃の伯父さんは、私・・・実は嫌いだったと。伯父さんとは父を指しています。ええ?びっくりして彼女に訊き返します。キャロルは父を悪く言ったり批判する人をあまり知らない。しかも遠縁の彼女の下す判定、聞き逃せないとそう思うのです。どうして嫌いだったの?高飛車だった・・・上から目線だった。そうかあ、キャロルはわかるような気がしたのです。まだ40歳になったばかりの父。自分の人生をユメという絵筆で白いキャンバスに描いていたはず・・・。果たせない夢など皆無だったでしょうに、父の性質にそういった功名心は健在でした。そして昨日、とんでもないことが発覚。長女の婿はなんと、日見中学校での生徒だったのです。担任ではないにしても。そしてこう申したそうな・・・まさか、自分の出た中学校の恩師を、レンタカーで運ぶなどとは思いもよらなかったと。