ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔71〕伯母は丁寧に説明してくれました。嘘をつかなければならないと強く感じた事件があったと。キャロルの母ミチ子が矢上に初挨拶に来たときだそうで、そのとき、うっかり仏壇に京子の写真を飾っていたら、母が、そのまま、いなくなって先に帰ってしまった事件。それは母を慟哭の渦に突き落としただろうと。父は自分が再婚だと話していたものの子供の話をしていなかったし、それを実家に説明していなかった。行き違いですが、もしかしたら、本当のことをその場で、受け容れて欲しかった、そういう試みが父にあったのでは?とキャロルなりに推測します。母はこの結婚に乗り気ではなかったし、ましてや、可愛い赤ちゃんが亡くなったばかりの家・・・。それは母のこころに影を落としたのは間違いありません。その女性の哀しみの上に自分が幸福を築くことの不当性は明確だったのです。どうしてこうまでして結婚を??疑問は彼女を立腹という心境に連行したし、父はその場で相手はくみされるかも?などと甘過ぎる。父は理想家の塊のような人物でした。まだ若いですから、世の中にいつかは打って出る!それくらいの意気込みと力は自分にあるんだぞ・・・との認識。買いかぶりでしかありませんが、戦後から10年のあの時代。いわいるナンデモアリの時代。意識するものすべては、変動と変革のリバーシブルハンドルに託されていました。あの時代に才覚を表し頭角を磨いた者達は一代を築いた。それらの人々は何事にも敏感でした。伯母はかよわい弟が妻からこれ以上いじめを受けない為に善処した積りだったのです。