ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔1〕キャロがレストラン修業で、長崎市平和町にある長崎パークサイドホテルのウエイトレスをしていたのは、まだ、長女だけが、子供として居た時期で24歳の頃だったと回想するんです。一歳数ヶ月くらいの娘を、自宅で看ていたのは前夫でした。大工として建築請負をしていたのですが、中々安定した仕事が得られず、一家三人が暮らしていくには不十分。たびたび、電気や、ガスが止まる寸前に、キャロの母親から通帳入金をしてもらっていたのですが、こういう自分が、ある日を境に、おぞましくなるんですね。あまりの貧乏ぶりに、父が、アパートを訪ねてきます。ほら、言わんこっちゃ無い、きちんと、生活設計を立てて、所帯を持たないから、こうなるんだよって。居辛くなった彼は、プイとゲンチャリバイクに乗って出掛けます。玄関に、ろうそくが一本立ち、灯し火はあるものの、倒れそうでした。電気も、ガスも止められ、水道だけがなんとか、息をしていました。そういう、お米もすりきり一杯になった、貧乏のどん底にあった、30年も前の、キャロを語ることが、もしも、有益なのなら、身に余る光栄でしょう。