サファイア・マン《かけがいのない男編》〔168〕玄関ノブに掛かったビニールカバーに覆われた翌週着る予定のスーツ上下を、大橋駅のトイレで着替え、そのまま古い方を又ノブまで返しに来る。この様相を傍目で観ながら、なぜ??とはもはや思いません。返しに来るのは紙袋に入れ込んでは皺が出来るから。何もかも会社仕様のこのビジネスマンを覚醒させるものが、家庭ではなかった事にようちゃんはある意味驚く。そして自分はこの旦那を一生ドアの内側に入れない方が人生は楽チン!!である真実に思いを馳せる。彼の差別意識こそが新世紀にはそぐわないもので、一緒に居てはこっちの魂まで腐敗させるに違いない!!とそう啖呵を切っていたのです。しかし自転車操業でそれまで工面したお金は借金の山となってようちゃんの心を雁字搦めにしていた。福岡銀行のカードローンでおまとめローンというものが出ている事を知って、多くの信販に生じていた借財をひとつに纏めてもらって返済が出来ないか、電話で訊ねてみるのですが、返事はやはりご主人が働き手である以上、ご主人がここを訪れないと審査が出来ないと告げられる。世の常識とは相当乖離した場所、しかも川で言えば、激流の中洲に立つ事を再認識するのです。