ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔208〕六歳から十九歳までしか矢上の実家にいなかった・・・と以前したためていたと思いますが、二十一歳の夏頃からの翌年の春までの間、キャロルが親孝行をしながら家にいたことは両親にとっても有り難い出来事で、毎日どうやって過ごしていたのかなあって懐かしみます。きっとあちこちのバイトを受けて仕事に行ってはキャンセルして帰宅してしまったりの連続。どれも続かなかったのです。西銀のケーキやさんの工場の仕事や喫茶店のカウンターの仕事、そしてメイゾン子馬というカワイイ喫茶にも数日間奉公しましたがどうしても身につかないんです。その内にキャロルは大物のいる喫茶店に入り一週間特訓を受けるのです。長崎でも有名なその社長のもとに日参したことで貴重な体験を得るのです。その人物の吐き出した言葉・・・。今までの自分の経験では聴く事が無かったゆえに感動してただただ、怖気付いていたのです。この世界で天下を獲りたいのなら、この店はきっと試練に見合う結果が見つかる、俺も右腕を探していた・・・と、そういった言葉の端々は気に入られている証明なのに怖かったのです。水商売の奔り〔ハシリ〕とも言える喫茶店に自分はかつて勤務していたはずなのに?そういった怖れや懐疑はこの分野の仕事に専門学校が無かった故に基準もまだ無かったのです。