ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔46〕父が自分で築いた財産はひとつもなく、事実、父の母親タヤとひとつ学年が上の姉である希子の母娘細腕繁盛記だったのです。父に赤紙がきて、野母崎の船団から、見送りを受け出陣しますが、それは、父が樺島小学校で、教諭をしていたからでした。そのお別れ会で、歌を歌った少女のひとりと、キャロが父をなんの気なしに、あの温泉に連れて行ったあと、樺島のからすみやさんでお会いすることが出来て・・・。父は風邪気味だからと風呂には入らず、食堂で二人むつまじくご飯を食べて。キャロはせっかく、ここまで来たのだから行ってみようよ!と、樺島に入って港に車を止めたのです。廃校になった、校舎の前で、父は、こらえられないような気持ちの揺らぎを感じたのか、ここがあの校舎、あのお別れの出陣式を、確かに思い出したよ・・・と。キャロはそういう父の深い洞察とは、裏腹に、若い頃の父にあった、全く別の表情に驚きを禁じえない。母は、戦後、きっぱりと、新聞というものを、抹殺していて、それは、脇田大佐を切ったことと、対になってはいたけど、まだ、その頃のキャロにはわからない。ただ父の無作為が、やがて自分の身に降りかかってくるのがわかっていた?その予兆をすでに嗅ぎとっていたとだけ言っておきましょう。