サファイア・マン《緻密な男編》〔188〕宇部への転勤の発表を聞いた時、私には稲妻は走ります。物をしたためていく材料になるような設定がすでにあったのです。その街は田舎でおおらかな工場の町でしたがようちゃんにとっては特別な町だったのです。心から愛した男性が何も言わず、去って行った街。私は作家としての周到なブレーン介在で彼が今、どんな暮らしをしているかを感知出来るだけの材料を握っていたのです。私をしかとして、逃げていったことは苦苦しいことではあったんですが、彼の部下とその前からボーイフレンドだったことで近況を掴んでいたのです。部下としての彼はようちゃんよりも二歳上で、逞しい経済力と、そしてクールな生きざまでようちゃんに刺激を与えてくれていたのです。しかしある事件が発端で、若い彼とも長い間音信不通の状態が敷かれていたのです。どっちの男もようちゃんにとっては青春の蹉跌のような男性たちでしたが、物書きようちゃんにとっては、その後の処遇や生きざまはとても大事な位置にあって、あれからどういう暮らしを彼らが営んでいるかを、目の前で知りうるチャンスを得ていたのです。彼らは何事も無かったかように、日常をすり抜けているのは、訊かなくとも分かっていました。しかし少なくとも作家のようちゃんには違う所作が求められていたのです。