ルビー・ウーマン《ジーニアース編》〔92〕母の言動は常軌を逸していましたから、住吉のアパート時代からキャロルには不安が植えつけられていたのも事実。何しろ、父に意見を言わせない、反故にする、上から押し付けて、父を無言に追い込める。こういった状況を幼い時から目の前で見せられたことは大きかったでしょう。母と袂を分かつだけの日常では、思想的にも世論的にも手詰まりになるという直感です。大きな激怒が母を襲い、母は家を出る準備をしてキャロルの手を引き今正に玄関を出ようとします。まだ矢上に越して数日の頃。タヤがあらかじめ、この家を建てた大工と話していて、これで、出て行かずに済むかと思いきやそれは甘かった。母は全員を殴り、キャロルを連れて家を出ます。ぎりぎりまで、止めたかったのでしょう。ダイクはこう言って、手を引っ張ります。大工の岩松師匠さんです。あんたが言いたいこともわかる、判るばってん、ばあちゃんの気持ちもわかってくれんね?って。タヤはどんなに孫と接したい気持ちを抑えていたのでしょう。二階にゴウヤの味噌炒めを持って行っても、受け取りを拒まれて・・・。それは父の大好きなフライパン炒めでした。母は、大工さんが加わったことで、余計意地を張ってしまったのでしょう。力ずくで、家を出て、ホテルに荷物をおろしたときには、放心状態でした。キャロルはここまで攻防したんだもの、女の意地が理性になることはあるんだと興奮冷めやらぬ夜を過ごすものの翌朝、なんと母は豹変するんです。売店でバナナのたわわと実るヒト房を買うとタクシーを呼ぶのです。