ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔65〕どんなに母に罵倒されても父は確固たる一介の教師。そして・・・並々ならぬ家系に生まれている。それを信じさせたのはタヤの弁・・・。何しろタヤはその頃はまだ西彼杵郡〔にしそのぎぐん〕、宿場で栄えた矢上村では数奇の存在。軍人が行き来する伝承所ですぐに和裁や家内業術を認められ特別出入り許されていたそうで中学の頃に知りました。本人の弁です。そして50代過ぎて、次女だった伯母希子から聞いたのは、最初、父が生まれたときのタヤのはしゃぎようで、その後に生まれたミチと合わせて三人の女の子と替えてもいい!と断言したほどと言うから困ったもんだと。三人の娘たちは、男の子の存在に眼を見張ります。一体、どんな時代であったが想像出来る。タヤは最初、虎彦と名前を決めて家を出ます。旦那の光男もいい名前だと賛成します。しかし役場で、村長をしていた兄に咎められたというのです。いわゆる懸念です。アドバイスでは貞彦がいいのでは?とのことでした。タヤは不満は感じますが兄の言葉でした。虎彦は強すぎる、出るクイは打たれるぞ!って。兄はタヤの尊敬する人。もともと、濱田家はかき道という地域では名門で今でもその門前に立つときには、キャロルの鼓動は鳴るくらいです。田舎ではあるものの名家の出なんだ・・・という認識はタヤのこころに嫁いでもあったのでしょう。当時電話もありません。家に帰って光男に相談することより、兄の言葉にタヤは従ったのです。大正12年、2月、そういう経緯のもとに父の出生届けは受理されたのでした。