サファイア・マン《面白い男編》〔10〕思ったことがズバズバ言えるキャロルに反して弟は人によりけりで、親しくなった介護の人々とは本当に自分から話しかけたりと親睦モードです。この面白い男を弟としてキャロルに付けたのは神々でした。あのアパートでの階段突き落とし事件で、両親と徹底的に話し合って、自分の望みを両親に突きつけたキャロルだったのです。鍵っ子のはしりのような生活。両親とも帰ってくるのは夕方七時を超過。テレビでもあればいいですが、毎日毎日、レコードを聞くだけでは寂しくて、その針の下で回るレコードを見つめながら、生身の人間が発する声を聞きたい、或いは、じゃれあいたい!と。寂しくて寂しくて、兄弟がいたら、事件を起こしてはいなかった・・・と吐露したことが、両親のこころに響いたのでしょう。聡明な母は悩みに悩みました。教員を辞める覚悟にいたからこそです。収入が減るのに、子供は出来る。そうすれば家計は火の車に違いありません。母は、まさか子供を授かるとは思わず、退職時期を伺っていました。このキャロルに特別な配慮をしたというのが本当の事情でした。早期教育が実を付けて、情緒不安定ながら、音楽では際立つものを身に付け始めたのに、ここで自分はこの子供に掛りっきりになった方が、よりいいのか?いいえ・・・そうに違いないと決断した背景は専念にありました。あと一歩違ったら、人をあやめたかもしれない・・・そこに敏感になりえた母はこの風変わりな少女を目の前にして、アパートではすでに狼少女との異名を付けられてはいるものの、そうじゃないんだ!っていう処の発奮もあったのでしょう。