ルビー・ウーマン《黎明編》〔5〕みんなもしっかり学んでください。三姉妹の中で最も浅黒く、あの格言を呪った母が〔色が白ければ七難を隠す〕、姉のお蔭で、逃れた。行きたくない戦時中の隣組訓練や裁縫、家事をすべてひとりでやってのけた。そして妹。疎開して、キミの着物や帯を、やぎの乳やお米に替えるとき、威勢のいい掛け声で、卵を一個おまけしてもらって・・・。母は物の価値ということについて深く考えさせられていたのです。高騰するとわかっていたら、種を蒔いていたし、時代がひっくり返る前に・・・。脇田大佐が戦死したことさえ、まだ、受け止めることが出来ずに、夢でうなされるのは、13段の階段の次に控える死への恐怖・・・。脇田大佐が地獄で味わった苦悩がそのまま、キャロの母であるミチ子に伝承された。事実、本当に母が笑ったのは、プロレスで、日本人が外人を破ったときで、キャロには異様にさえ映ったのです。帝国海軍の大佐の遺児であることが、プレッシャーを、コンプレックスを三倍にしていたのでしょうか。ミチ〔父の妹〕は、四月恒例の矢上町の普賢山〔ふげんさん〕のお祭りに二人で登山するようにもちかけます。実は母は困惑していたのです。アパートへ帰ろうと、帰路を辿ると、父が待ち伏せをしている。そういうことが数回に上って、このストーカー行為に決着をつけなければと思っていた矢先だったのです。