ルビー・ウーマン《黎明編》〔1〕キャロは生まれる前からの、記憶があります。母が、お腹の中にいるキャロに話しかけたから?いいえ、母が産むことに相当の躊躇をしていたからなんです。強烈な躊躇は苦悩を呼び起こし、キャロの脳を、他の胎児達よりも、闊達に鋭敏したのは言うまでもありません。どうして、自分までも、いたたまれない気持ちになるのか?どうやって、この連鎖的苦悩を、払い退ければよいのかを思考したのです。奥様お手をどうぞという、楽曲を後で聴いた時に、キャロには懐かしい胎児の時代が、脳の貯蔵庫に保管してあることに気が付いたのです。後添え〔後妻〕であっても、もらってくれる人が現れたことが、奇跡だよ!という兄の助言は絶大でした。父の妹ミチは、会うだけあったら?と盛んに薦めてきます。二人は、諏訪神社から程ない場所にあった茶道教室で運命的な出会いを果たしていました。母は伊良林〔いらばやし〕小学校に、父の妹は公立幼稚園に勤務していました。二人とも名前にミチが付くのです・・・。西暦1954年(昭和29年)に母は実母であるキミを亡くしていました。姉も妹もすでに結婚していましたから、置いてきぼりになった感は否めませんでした。