サファイア・マン《緻密な男編》〔165〕父はよもや家に入れてはもらえない?などという事は避けたいものの家に入れてもらえないなら己の案は成立しない。家に入れてもらいそこでシゲルちゃんが帰った時に自分がチェーンを外す作戦がいかに正当な方法であるか解っていても、難しいのです。この修羅場はまるで当人阿修羅のようにしんどかったし、とうとう弱気になってしまいます。西暦1989年いわゆる平成一年は、後半から素晴らしい年になっていくのに、父にはまるでそれが予想も出来ない。なぜならここでの失態が自分の父としての評価に影響を与える命題になっている故、頭が痛かったのです。シゲルちゃんは仲介役に父を立たせて、娘への影響力を冷静に観察しているのです。依然として父には娘を説得出来る言葉が見当たらないのです。しかしぶっつけ本番という巧妙な言葉を引き出して、ピンポーンを鳴らしてみるのです。ああ、お父さん!!来てたのね?娘は機嫌よく中に入れてはくれるのですが、それは期待を裏切る結果待ちだという事をどこかで父は予知していて、娘は笑顔を振り撒きながらも、心の中では鬼を飼って久しい事を父は汲み取っていたと言えるでしょう。