ルビー・ウーマン《ロイヤル・ボックス編》〔87〕少し変わったホステスだったかもしれないし、その彼だって、とうとう究極的にお金に困って逃げてしまった可能性もある。キャロルは店に来てもらう方を選んだのです。毎日彼が店にお金を注ぎ込むことがキャロルにとっての幸せで、忙しそうに見えることが成果だったのです。その恩恵は確かにあって、ひとつのポジションを軸に、各テーブルを渡り歩くキャロルは傍から観ると正しく売れっ子でした。キャロルはこの店で四年目を迎えていたのです。みんなが目的に向って毎日を闊歩していて、そのロイヤル・ウォークに見とれたのも事実です。正直キャロルはナナさんのお客を継承してはいましたが、毎日の生活に疲れ、ほとんど客の誕生日など祝ったことがない。その貧しさに比べて他のホステスには余力がありました。でもキャロルは不思議な強運をすでに射止めていたし、そのことに気がついたのも彼が逃げた後でした。知り合いのお客さんの顔を立てて、彼を紹介したことがあったのです。そんなに沢山の借金をしていることを彼はおくびにもださない。彼が逃亡してしばらくして、サラ金の負債がキャロルにも襲い掛かってきたのですがその生命保険証書がキャロルを救ったのです。そんなに長い間掛ける積りなど彼に微塵もなかったけれど、保険の効力が生きていたことが良かったのです。ふたりの恋愛が真実で、本気だったことが証明されて、店のツケもすべて払い込まれるという結果を得たのです。キャロルはあの勧誘マンが忘れられない。指にハンディがあったのに気さくだった。もちろん今はそういった妻以外の女性に遺す契約があるのか?定かではありません。彼が死んだ訳ではないしキャロルに災難が及ばなかったということですね。