エメラルド・ウーマン60

 どうすれば貯蓄がどんどん膨らむのか?貯めている人々はやはり質素を友としています。私が容子の旦那様と初でお会いしたとき、この方は・・・・と固唾を飲み込んだのを覚えています。偶然も偶然であたしが従兄弟のお嫁さんと同じ小学校で以前働いていたのですが、その方のご子息と同じ銀行でしかも大分支店ですでに二人は働いていたから人生は奇遇の連続です。スマートでとても皆から愛されるタイプのバンカーではなく、逆だったのです。昔型とでも言うのでしょか。はっきり言うと、企業戦士という言葉が流行ったあの頃の銀行員だったのです。どこから見ても厳しくて部下の言い訳なんか許さない。こういう方に限って家では優しいことを私は知っていましたから、なんとはなし、アドバイスをしたくらいです。厳しい人は家では寛ぎたいのです。子煩悩ですから、子供の成績が良ければもっと仕事に熱意を出すタイプ。しかし肝心の容子は、亭主を操作して妻の手のひらの上で上手に動かすことはせず、文学にのめり込むのですから、人生いろいろなんですね。私は妹が短歌を新聞に投稿する投稿歌人でしたから、そこまで強く注意はしません。自分がのめり込むものが、はっきり現れてきたことが良いのかも・・とそう解釈しました。文学は家庭の基礎にすらなりうる妙味かも・・って。しかし生活費を最小限にして、もっと貯蓄をしていきたいご主人の意志と容子の思惑は、やはりかけ離れていました。勝手気ままのお嬢様育ちで来たこともあったでしょう。そこまで苦しい生活には耐えきれないって、私にぐちをこぼすことも往々にしてあったのです。

 確かに、ご主人と容子の育った環境は全く違います。しかし妻となったからには相手に自分を合わせないといけないのです。どんなに苦しいかを、手紙で何回も寄せてきましたから、私は何回もお金を振り込みました。生活費が足りない・・・ってその貧困を手紙で伝えて来るのです。私がそのとき思ったのはやはり、自活したことがない人間の未完成な弱さを痛感したのです。自分の手に職をつけないといけないと、口を酸っぱくしてあれだけ容子に解いたことは、間違ってはいなかったのです。芸術の開花にも自立自営が深く関与していること・・・ようやく66歳になってあの子にも身に沁みてきたのではないでしょうか。