エメラルド・ウーマン9

 棚からぼた餅ではありませんが、容子の母親の特技はそれだったことで、私はなお、興味しんしんになります。古い格式や概念はすべて、捨ててしまったはずの彼女が、恐らく鹿児島育ちの母親から教わったであろうぼた餅だけは、精魂込めて作る。人間性はまるでない、存外であった彼女に対する負の評価が、一瞬にして変化する。気持ちに灯がともり、彼女を褒めてみようかな?とそう思い直す。ポジティブな画策と言ってもいい。もはや、交流はほぼ諦めかけていた私だった。彼女は、私の母親タヤを平気でスルーするけど、ぼた餅の時には、なぜか、全員にご賞味をさせる。おめでたい日という非日常の観念がさせたのでしょう。私は、天下一品の味がするわよ!って評価をする。彼女は、そお?って返してくる。まんざらでもない顔。脈はある…って私は心の中で息巻く。女性同士の第6勘の手応えはあったのです。