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物事すべてにラッキーパーソンは存在する。自分が苦手・・・ってそう感じている人物がラッキーパーソンである可能性。この凄味醍醐味だろう。姉は一回、こういうシーンをクラブで経験する。まだ、バンドマンたちが出勤してこない時間帯、夕方六時半過ぎに同友会の地元メンバーたちを連れてオーナーが入ってくる。二十人はいたという。そのときピアノ伴奏で全員に持ち歌を歌わせる。いきなりで驚く瞬間でもあったが、僕はそのとき姉はチャンスを掴んだのだと思う。オーナーは同友会メンバーみんなが歌を歌えたことで満足して帰ったあと、姉の着物の袖の中に一万円を放り込む。びっくりして中を後で確かめる。実は僕の親友はこのクラブにボーイでアルバイトしていて当時の話を聞いた。リズムボックスという太鼓の音が出る機器を姉に持って行き、ピアノと一緒に使ったら?って持ち掛けると、姉は要らないってすぐさま断ったという。なぜか?誰だって思う。リズムが加わればより歌い手は喜ぶのでは?って。疑問符も生じたのだが真実は次にくる。姉は、お客は全員酔っ払っていて、そういう機械的な速さや旋律を守れないことを、事前察知していた。リズムボックスを使用すれば顧客は置いて行かれる可能性すらあるって。苦手だったオーナーは美人好みでいつも隅っこで冷飯を食わされたゴリラ顔の姉。しかしこの一件でオーナーは姉を一スタッフとして認める。ピアノが弾けるホステスとして。