Ss199

 昨夕僕は固唾を飲み込む。にわか芸人が来たみたいに矢上神社から高笑いが聞こえて来るのだ。家に戻って寛いでいた僕の心が騒ぎ始める。不意に外に出て偶然会った振りをしてでも姉の顔を見たい気持ちはあった。しかし勇気が出ない。僕のシャイな一面を露にしてしまう場面に来ている。義兄がせっかく相続登記のお金を支払ってくれるという場面で僕は何と義兄を制圧したのだ。あんたには関係ないだろ?って。僕は一年以上前のあの日をまだ引き摺っている。なんで能力もないのに兄に素直に応じることが出来なかったんだろう。今なら違う。一年半経過してやっと僕には銭能力がないことが判明した。宝くじを買うお金もない。そういう貧困の奥底にあって家族の恩にじわじわ牽引されていく自然な流れを見つける。僕が仏になった時に姉と和解では両親はきっと泣くだろう。ベランダで雪のおにぎりを作って僕に渡してくれた姉の笑顔は永遠だ。矢上神社が姉の声を知らせてくれたのかもしれない。もっとお前から素直になるんだよ?って。相手は姉だぞ?六歳も上なんだぞ?って。ましてや義理のお兄さんは19歳上だろ?って。そこまで口説き導いてくれたのだとすればこれは神仏の力としか言いようがない。僕は目をしっかり閉じる。姉の方から僕のもとに来てくれる嬉しい予感が活発になってくる。