Ss182

 その日暮らしで何の未来もないような僕でも、心に照りやてかりを保有している。照りは希望で、てかりは気負いだろう。僕は自分で言うのも何だが、就職に失敗したほろ苦い思い出をまだ引き摺っている。しかし大方人生は勝つか敗北かで決まる。だからこそ一回の失速で木端微塵になってしまう方が問題。僕は姉と違って繊細だったとしか言いようがない。細かいところまで気が付く。優しいのかもしれない。僕は見事に消防士の就職試験で落ちた。筆記試験も自信があったし、体力も絶対的な自信があった。しかし結果は惨敗だった。僕はあの時の、苦い経験がずっと今も尾を引いているなど、ここで言いたいのではない。そこまで僕がショックを受けたということは消防士というのはみんなの憧れの職場であることを改めて思うのだ。子供の頃ならみんなが救急車やパトカーに憧れ僕もその一端を背負っていた。就職に失敗してそれから何度も挑戦すべきを僕は一回で懲りた・・・。むろんそこがイノセントだった。姉は僕とは違う。面の皮が厚い。繊細な心など持ち合わせてなどいない。二人で二階のベランダに降り積もった雪を食べた思い出が僕を法外な絶境に引き込む。姉は何と雪でおにぎりを作って僕の目の前に差し出す。長崎では珍しく積雪したのだろう。その重たい雪に崩壊しそうなトタン屋根の二階二畳の台所の先にベランダはついていた。このベランダが僕の宝島だった。