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 死の淵に立たされ、最後は親友にあてていた文章を見つめながら、医者と言う者の天命論に波及する。自分の出世だけに奔走していた財前が唯一変われる機会を得たのが、自分に襲いかかった病魔だったことを思うと、何か得体の知れないスケールを禁じえない。ここまではっきり死と対峙したことは、僕でさえかつて無い。穿った捉え方かもしれないが、生きることと出世街道を驀進するということは前者がきちんと機能しての後者なんだなあは、今更ながら身に沁みる。早期発見出来ていれば、ストーリー変遷を余儀なくしただろう。こういう段階を踏んだ時に必ず出て来るのは、あんなことやった医師だから罰が当たったという天罰論だが、この物語ではそういう衒いは全くない。もっと描いて欲しかった患者の心と思う位、医師の精神世界を見事に描き切った。そして社会をひっくり返すと会社になるように、様々な人間は組織の中で多様性ある位置に立っている。いかに生きればいいのか?この布石は、にわかに問い掛けている。村八分になってまで正義を貫くのは決して馬鹿ではなく、むしろ相当の覚悟で着手すべきを改めて僕達に提示する。そこでどんな生き方を選ぼうと個人のさい量で勝手だ。本人の経験や勘にもよる処は大だろう。大きなテーマで特に若者に問い掛けた今回の作品を、僕は生涯忘れないだろう。